今から六十年前、米倉斉加年は、周囲の人々の反対をふりきって「演劇」をめざして、故郷福岡から上京しました。

それは少年アンデルセンが故郷オーデセンからコペンハーゲンへ出発した事に重なり『絵のない絵本』を同級生の少女は彼に贈りました、それは、少女から初めての贈り物でした。

或る日、少女は自分が八十才にまもなくなる事を認識しました。

同級生の少年も同じ時間を経て来た事を思いました。

少女が『絵のない絵本』を贈った二年後から彼等は一緒に生き始め六十年の歳月を一緒に生きて来たのでした。

二人は今更に長い歳月を一緒に生活できたことを、半ば驚きと共に喜びました。

「今年の貴方の誕生日にわたしは、アンデルセンの戯曲をプレゼントしようと思う」

彼は否定しませんでした。喜びもしませんでした。「ふーん」と言う感じでした。

その時から一年余り、「何時できるんだ」と、何度か言われ、ごまかしながら時が過ぎ・・・・・・

でも、二人はおだやかな時を過ごしていました、過ぎし日の様な、激しい口論もなく日は過ぎて行っていました。

              
                            テルミ